顧客インタビュー、聞き方を変えるだけで本音が引き出せる

本音を言わない顧客が問題ではない
「実際に使ってみて、どうでしたか?」と聞くと、「使いやすかったです」「特に問題ありませんでした」と返ってくる。そこで「改善してほしいところはありますか?」と重ねても、「今のところ大丈夫です」。会議室には少し気まずい沈黙が流れ、担当者は手元のメモに「概ね好評」と書き込む。顧客インタビューでは、こんな場面が珍しくありません。
そして数週間後、その顧客が商品をほとんど使っていなかったことが分かったり、新機能を追加しても利用率が上がらなかったりします。「インタビューでは満足していると言っていたのに」と首をかしげることになります。
ここで疑いたいのは、顧客が嘘をついた可能性ではありません。むしろ、「答えにくい質問をしていなかったか」です。
人は質問された範囲の中から答えを探します。同じ事実でも、提示する枠組みによって受け取り方や判断が変わる現象は、心理学ではフレーミング効果として説明されます。顧客インタビューでも、「満足していますか?」と聞いた瞬間、相手の頭の中には満足か不満かという二択に近い枠ができます。本当は「面倒だけれど、代替手段がないから使っている」という状態でも、その情報が回答からこぼれ落ちることがあります。
つまり、「顧客が本音を言ってくれない」という感覚的な問題を構造として捉え直すと、「質問のフレームが、顧客の回答可能範囲を狭めている」という問題が見えてきます。
意見ではなく実際に起きたことを聞く
顧客の本音に近づきたいなら、「どう思いますか?」より先に「何が起きましたか?」を聞きます。
たとえば、新しい予約システムについて聞くとします。「この予約画面は使いやすいですか?」という質問では、相手は画面を評価しなければなりません。すると「使いやすい」「普通」「少し分かりにくい」といった感想が中心になります。
一方で、「最後に予約しようとしたとき、最初に何をしましたか?」と聞きます。すると、「まずスマホで検索しました」「予約ページを開いたけれど空き時間が分からなくて、一度閉じました」「結局電話しました」といった行動が出てきます。
この違いは大きいです。前者で手に入るのは「評価」です。後者で手に入るのは「事実」です。そして商品改善やサービス設計で価値が高いのは、多くの場合、後者です。
ジョブ理論では、顧客は製品そのものを求めているのではなく、ある状況で達成したい目的のために製品やサービスを使う、と捉えます。「電話予約の方が好きです」という発言より、「Web予約を途中で閉じて電話をかけた」という行動の方が、改善すべき場所を具体的に教えてくれます。

欲しいですかを過去の行動に変える
顧客インタビューで特に注意したいのが、未来の意思を尋ねる質問です。「こんなサービスがあったら使いたいですか?」は聞きやすい質問ですが、答える側にも簡単です。「便利そうですね」「あれば使うかもしれません」と答えれば、その場の会話は丸く収まります。
しかし、サービスを実際に利用するかどうかは別問題です。そこで質問を過去に向けます。
1.「この問題で最後に困ったのはいつですか?」
2.「そのとき、具体的に何をしましたか?」
3.「解決するために何を使いましたか?」
4.「どれくらい時間や費用がかかりましたか?」
5.「それでも解決できなかったことは何ですか?」
たとえば、「経費精算をもっと楽にしたいですか?」ではなく、「先月の経費精算で、一番時間がかかった作業は何でしたか?」と聞きます。すると、「領収書を探す」「上司に確認する」「Excelへ転記する」「入力ミスを直す」といった具体的な作業が見えてきます。
ここまで聞ければ、「経費精算が面倒」という感覚的な言葉を、「情報探索時間」「確認待ち」「二重入力」「修正作業」といった改善可能な構造へ変換できます。ここから初めて、何を削り、何を自動化し、どこに仕組みを入れるべきかという設計に進めます。
自社の質問を3つの観点で確認する
次回のインタビュー前に、質問票を開いて確認してみてください。
・「どう思いますか?」という感想質問ばかりになっていないか
・「使いたいですか?」という未来予測を事実として扱っていないか
・自社の商品やアイデアを前提にした質問から始めていないか
特に3つ目は重要です。「このAI機能があれば便利ですか?」と聞けば、話題の中心はAI機能になります。しかし、顧客が本当に困っているのは、「毎朝30分かけて数字を集めていること」かもしれません。
この場合、解決策はAIとは限りません。入力方法を変えるだけかもしれませんし、そもそも不要な報告作業を廃止できるかもしれません。顧客インタビューの目的は、自社が考えた解決策を褒めてもらうことではなく、解く価値のある問題がどこにあるかを診断することです。

なぜを重ねるより場面を深掘りする
深掘りしようとして、「なぜですか?」を何度も繰り返すケースもあります。根本原因を探るうえでは有効な場面がありますが、質問される側が理由を後付けしてしまう可能性も考えておく必要があります。
そこで、「なぜ?」だけでなく、場面を再現する質問を組み合わせます。
「そのとき、どこにいましたか?」
「最初に何をしましたか?」
「次に何をしましたか?」
「途中で困ったのはどこですか?」
「誰かに確認しましたか?」
「最後はどうやって終わらせましたか?」
すると、抽象的だった話が具体化していきます。「報告業務が大変です」という一言だけでは改善策を設計できません。しかし、「毎週金曜の夕方、営業担当5人から数字が届くのを待ち、届いたExcelを1枚にまとめ、数字が合わない箇所をチャットで確認し、19時ごろようやく役員向け資料を作り始める」と分かれば、改善する場所はかなり絞れます。
聞くべきなのは「大変ですか?」ではありません。「大変だった瞬間に、何が起きていたか」です。
本音は発言と行動のズレに現れる
さらに注目したいのが、顧客が自分で作った埋め合わせです。本来のシステムがあるのにExcelを使っている。マニュアルがあるのに付箋を貼っている。Webフォームがあるのに電話している。正式な業務フローがあるのに、担当者同士が個別チャットで処理している。
こうした行動は、「顧客がルールを守っていない」で片付けるべきものではありません。既存の解決策では満たされていない課題を探す重要な手掛かりになります。
インタビューでは、「何に困っていますか?」だけでなく、「今、それをどうやって乗り切っていますか?」と聞いてみてください。顧客自身が「課題」と呼んでいない場所から、商品改善や新サービスの種が見つかることがあります。
聞き方を変えると意思決定の質が変わる
顧客インタビューの成果は、話を盛り上げられたかでは決まりません。「次の意思決定に使える事実を持ち帰れたか」で決まります。
そのためには、診断、設計、実装を分けずに考えることが重要です。まず事実から課題の構造を診断し、次に改善案を設計し、小さく試して結果を確認する。この流れまでつながって初めて、インタビューが商品開発やマーケティングに生きてきます。
次の顧客インタビューでは、一つだけ試してみてください。「どう思いますか?」と聞きたくなったら、「最後にそれが起きたのはいつですか?」へ変えることです。
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