採用で解決しようとする経営者ほど、育成の機会損失に気づいていない

「人が足りないから採る」が最初の落とし穴
「現場が回らない」「管理職候補がいない」「営業をもう一人増やしたい」。こうした声が会議で続くと、経営者としては採用に動きたくなります。求人媒体を選び、人材紹介会社と打ち合わせをし、条件を見直す。採用活動は目に見えるので、対策を進めている実感も得やすいものです。
しかし、人が足りないという現象と、採用が必要という結論は同じではありません。たとえば5人のチームで、リーダーしか顧客対応を判断できず、残り4人が毎回確認を待っているなら、6人目を採用しても判断待ちが1人増える可能性があります。必要なのは人数ではなく、既存社員が判断できる範囲を広げることかもしれません。
ここで厄介なのは、採用コストは見える一方、育成しなかったことによる損失は請求書にならないことです。求人広告費は月次で確認できますが、「半年あれば任せられるようになっていた社員が、半年後も同じ仕事しかできない」という損失は損益計算書に項目として現れません。だからこそ、経営判断から抜け落ちやすいのです。
採用費には見えるが育成の機会損失は見えにくい
育成の機会損失を考えるとき、研修費だけを見ると判断を誤ります。本当に見るべきなのは「社員ができるようにならなかった仕事」と、その結果として上司や経営者が抱え続けている仕事です。
たとえば月給35万円の社員が、月20時間を上司への確認や判断待ちに使っているとします。さらに上司も、その確認に月10時間を使っている。ここには本人の待ち時間だけでなく、管理職の時間、意思決定の遅れ、顧客対応の遅延まで連鎖します。採用なら「採用単価」という数字で見えますが、育成不足は複数の業務に薄く散らばるため、経営者から見えにくくなります。
さらに大きいのが、挑戦する機会の消失です。「まだ任せられないから」と上司が仕事を回収し続ければ、部下は判断経験を積めません。判断経験がないから翌月も任せられず、また上司が仕事を回収します。本人の能力不足に見えて、実際には能力を獲得する機会そのものが不足しているケースがあります。
人材育成では、制度を用意するだけでなく、KPI設計、評価、1on1などを担うマネジャー側の能力も重要です。育成を現場任せにせず、管理職が成長を支援できる状態まで設計する視点が求められます。

人材不足を能力不足と仕組み不足に分解する
では、「人が足りない」という感覚をどう診断すればよいのでしょうか。最初にやるべきことは、採用するか否かを決めることではありません。「不足しているものは何か」を分解することです。
現場でよく聞く「いい人が来ない」という言葉も、そのままでは打ち手が決まりません。採用市場に求める能力を持つ人が少ないのか、入社後に能力を伸ばす仕組みがないのか、既存社員に仕事を移管できていないのか。この3つでは対策がまったく異なります。
私は人材不足を見る際、次の順番で確認する方法が実務的だと考えています。まず、業務量を現在の人数と稼働時間で処理できるかを確認します。次に、既存社員が3か月後、6か月後に担当できる仕事を棚卸しします。最後に、特定の人だけが判断基準や手順を持っていないかを確認します。人数不足、能力不足、仕組み不足を分けることで、採用すべき仕事、育成で補う仕事、仕組み化で減らす仕事を判断しやすくなります。
採用前に確認したい3つの育成指標
ここで一度、自社を確認してみてください。採用計画を開く前に、直近6か月の現場を3つの数字で見るだけでも、人材不足の見え方が変わります。
1つ目は上位者への確認時間です。社員が上司やベテランに判断を求めている時間を1週間だけ記録します。確認が集中する業務が見つかれば、人数ではなく判断基準の不足がボトルネックかもしれません。
2つ目は業務移管率です。3か月前まで管理職が担当していた仕事のうち、現在は部下だけで完結できる仕事が何割あるかを確認します。半年たってもほとんど移管されていないなら、育成が日常業務に組み込まれていない可能性があります。
3つ目は再挑戦回数です。失敗した社員に、同じ種類の仕事をもう一度任せた回数を見ます。一度の失敗で仕事を上司が回収してしまう組織では、社員が経験から学習する機会を失います。
これは組織行動論でいう動機づけや心理的安全性とも関係します。心理的安全性とは、単に「仲が良い職場」という意味ではありません。質問、提案、失敗の共有といった対人リスクを取れる状態を指します。失敗すると仕事を取り上げられる環境では、社員は挑戦より無難な選択を学習します。
つまり「任せられる人がいない」という感覚言語を構造として捉え直すと、「任せる経験」「判断基準」「フィードバック」「再挑戦」の不足として診断できる場合があります。ここまで分解できれば、「もっと主体性を持ってほしい」という精神論ではなく、仕事の設計そのものを変えられます。
採用と育成を対立させない人材戦略
もちろん、本当に人数が足りない会社はあります。新拠点の開設、新規事業の開始、受注急増、専門資格が必要な業務など、外部から人材を迎える方が合理的なケースはいくらでもあります。問題は採用することではなく、「人が足りない」という一言だけで採用を唯一の解決策にしてしまうことです。
採用と育成を一つの人材供給プロセスとして見ると、経営判断は変わります。まず現在の業務を棚卸しし、不要な仕事を減らす。次に、判断基準や手順を整えて既存社員へ移管する。それでも不足する能力について、社内育成に必要な期間と外部採用に必要な期間・費用を比較する。そのうえで採用する。この順番なら、採用した人にも仕事を任せやすくなります。
採用活動に100万円を投じるかどうかは慎重に議論するのに、既存社員10人が一年間ほぼ同じ仕事を続けることは議題にならない。この非対称性こそ、育成の機会損失が見えなくなる理由です。育成は福利厚生ではありません。将来の仕事を誰が、どのコストで、どの速度で担えるようになるかを設計する経営活動です。
次の採用会議では「何人採るか」を決める前に、「今いる人が半年後に何をできるようになっていれば、この採用は不要になるか」と問いを置いてみてください。その答えが具体的に出てこないなら、採用課題の中に育成課題が隠れている可能性があります。
あなたの会社では、人材不足を「人数」「能力」「仕組み」のどこまで分けて判断できていますか?
採用を増やす前に、「今いる社員が育たない原因」を業務や組織の仕組みから整理してみませんか?採用費を増やしても現場の判断待ちが減らない、管理職が仕事を抱え続けている、育成制度を作ったのに現場で回らないという状況では、人材の問題だけを切り離して考えないことが重要です。
💡合同会社RASHでは、ビジネスや経営課題の立ち上げ・仮説検証段階から関わり、診断・設計・実装までを一気通貫で支援するFDEとして、3つの軸で事業を展開しています。
📒3つの軸は、生成AI/DX導入支援、マーケ研修、システム開発・AI構築です。ツールを導入して終わるのではなく、現場で使われる業務設計や人材育成まで含め、実際の事業課題に合わせて支援します。
たとえば「採用する前に既存社員へ移管できる業務を整理したい」「管理職が抱えている仕事を可視化して育成計画につなげたい」といった今回のテーマに近いご相談だけでなく、「生成AIをどの業務から導入すべきか分からない」「営業やマーケティングを仕組み化したい」「社内業務に合わせたAIやシステムを構築したい」といった別領域のご相談にも対応しています。もっと抽象的なご相談でもOKです。
課題が明確になってから相談する必要はありません。「採用しているのに忙しさが変わらない」「社員に任せたいのに任せられない」といった違和感の段階から、何を診断し、どこを変えるべきか整理できます。あなたのビジネスを伸ばす「AI活用型システム開発、AI導入支援/研修/ハンズオン型サポート/コンサルティング」など「弊社ができること」はこちら



